完成まで2年、南部鉄器のゴジラ鉄瓶――及富・菊地章<後編>

< Read the previous part 1848年創業、南部鉄器 老舗8代目に伺う鉄分と歴史――及富・菊地章<前編>

「もうこんなのやんなきゃよかった」

ゴジラ鉄瓶が完成するまでの2年間、何度もそう思ったと話すのは、1848年創業の南部鉄器工房・及富の8代目、菊地章さんです。

3D砂型プリンターという新しい鋳造技術を学ぶなかで、子供の頃に夢中で見たゴジラを鉄瓶にしようと思い立ちました。しかし、東京へモデルを持っていくたびに返ってきたのは「ちょっと違う」という言葉でした。

後編では、1,500〜1,600度の鉄を流し込む鋳造の現場と、ゴジラ鉄瓶ができるまで、そして日本の文化を残していくことへの想いを伺いました。

菊地章

菊地章

南部鉄器工房「及富」8代目。1957年岩手県生まれ。1848年創業の南部鉄器工房「及富」6代目の次男として生まれる。東京造形大学彫刻科で彫刻と鋳造を学び、東京でのアトリエ勤務を経て1981年に及富へ入社。以来、南部鉄器職人として製作に携わりながら、デザインや商品開発、海外展開などを担う。

*Article content is based on information at the time of the interview

#4 南部鉄器の職人現場

――やっぱり、鉄の臭いがすごいです。
ある程度、忍耐力が必要だよ。

魚屋にいれば魚臭くなるし、鉄屋にいれば鉄臭くなるから、まあ、そこはしょうがないよね。それでよしとする人じゃないとこの仕事はできない。ここでは、鉄を運ぶための道具を粘土で作っているんですよ。1,500度にまで耐えるひしゃくを作らなければならない。かなり炙ってあげないと、鉄の温度に負けてしまいます。――空洞を作るための砂型も粘土で作っているのですか?
そうそう、デザインによって空洞を作る中子(なかご)の形が違ってきます。

砂型の中に、ポコっと入れると、3mmくらいの隙間ができるので、そこに鉄を流し込みます。中子を入れないと鉄の塊に…(笑)鉄アレイみたいになっちゃいます。

――ちなみに中子はどうやって浮かせているんですか?
いい質問だね!実はこれ発泡スチロールを中に入れて浮かしてるんです。

発泡スチロールによって型と中子に小さな隙間を作って、発泡スチロールが溶けつつ、固まるという。これは30年くらい前に、うちで特許をとっている技術になります。この型に砂を詰めて、上下で砂の型をとると。そして砂型よりも3mmほど小さい中子を入れる。中子は溶けてサラサラになります。
――このあとは粘土で作ったひしゃくを用いて、型に鉄を流し込む。
そうだね。火力があるから1,500度〜1,600度くらいかな。だいたい1,400度を超えてこないと、型の中に勢いよく流れてくれないんだよ。まさに血液と同じ。ドロドロした血液だと、血管の中を回りづらいでしょ(笑)サラサラしている状態じゃないと、型の中を流れてくれない。

――温度調整はどのようにされているんですか?
注いでいるうちに温度が下がってくるので、そこは職人が目で見て判断します。職人たちはみんな体感でそれを分かっているからね。

#5 ゴジラ鉄瓶 誕生の裏側

―― 伝統的な鉄瓶だけでなく、過去には風鈴やゴジラといった変わったものも作られていますよね。
ゴジラ鉄瓶は5年ほど前に始めたのですが、きっかけは、5〜6年前に「3D砂型プリンター」という新しい鋳造技術を取り入れて勉強し始めたことでした。

通常の鋳造は、風鈴なら風鈴の物理的な型があって、そこから砂で型を取って鉄を流します。しかし、3D砂型プリンターは、型が全部データ化されているのでリアルな型が存在しません。コンピューターがデータをもとに、砂の塊のブロックの中に最初から隙間(型)がある状態でプリントしていくという面白い技術です。

――最初はトリケラトプスの鉄瓶だったと伺いました。
そうなんです。たまたま声をかけて頂いて3D鋳造で作ってみたら、数ヶ月で割とすぐうまくいっちゃって。ただトリケラトプスの鉄瓶を買う人はそういないだろうなと(笑)――そこからゴジラを作ろうと思ったきっかけは?
ふと思い至ったのがゴジラでした。私は初代ゴジラの映画が封切りされた頃の世代なので、子供の頃に第2作、第3作と夢中で見に行っていました。その記憶が蘇ってきて「ゴジラを作ったらみんな喜ぶんじゃないか」と。

――どのように制作していったのでしょうか。
はい、外で勝手に売ったら大変なことになりますから、どうしたものかなと思っていたら、東京の知り合いがなんと、初代ゴジラ映画に出演された東宝のトップスター・宝田明(たからだあきら)さんのご友人だったんです。

―― すごい繋がりですね…!実際に宝田さんにお会いされたのですか?
お会いしました。東京の王子にある宝田さんの事務所に伺って、トリケラトプスの鉄瓶をお見せしながら「ゴジラ鉄瓶を作りたいんです」とお話しました。そうしたら宝田さんが「やろうやろう!」と言ってくださって。

その後、本当に東宝の事務所にお邪魔することになりました。ただ、ゴジラの版権管理はすごく厳しいんです。担当者の方から「ちゃんとやれるのか」というような圧力を打ち合わせで感じました(笑)

――製作過程をお聞きしてもよろしいでしょうか。
打ち合わせから2回、3回、5回と、モデルを作っては東京へ持っていきました。担当者の方に「目がちょっと違うね」「鼻をもうちょっと……」と言われてしまって。

数ヶ月かけて修正しても、毎回「ちょっと違う」と言われる。具体的に「1cm広げて」とかではなく「ちょっと違う」と言われるのが、作り手としては、一番やりづらくてね。―― その難関をどのようにクリアされたのですか?
結局、最初の構想から完成まで2年はかかりました。本当に長くて、「もうこんなのやんなきゃよかった」と何度も思いましたよ。

型を作って鉄を流しては失敗し、それを6回も7回も繰り返したので、自分自身の自信は喪失するし、プライドも粉々になりました。

―― それでも完成させた。
はい、なんとか。諦めずにやり遂げて出来上がった。新宿のゴジラがある場所で発表会をした時は、結構盛り上がりましたね。

野球で言えば「9回裏満塁逆転ホームラン」という感じでした。諦めないで色々やっていると、何かの形で光が差してくるんだなと思って。
――まさに執念が実を結んだ瞬間ですね。
そうですね、ゴジラ自体もすごいですが、ものを作ることって、諦めるために始めたことではないですからね。自分が作りたいと思ったものを形にすることが、何より尊い。

自分の心に強い志を持つことが、最終的に目指したものを完成させる力になるのだと思います。

#6 役割を全うすること

―― 最後に、南部鉄器を含めた「日本の文化を残していくこと」に対する、これからの想いを聞かせください。この土地に生まれてね、やっぱり生まれた理由があるんだろうなと思います。

そう考えると、ここの空気、土、風をたくさんいただきながら、この土地の人と分かり合えるようなものを作っていけることは、すごく幸せなことですし、それを大勢の方に知ってほしい。

工芸品に限らず、こういうお話を通じて共感してもらえたらすごく嬉しいですね。日本が世界に誇るというよりも、日本の子供たちに、本当に大事にしなきゃいけないものを、もっと経験できるような場面、環境を作っていく責任があるなと感じています。


―― 「やることができる人はやらなければいけない」という、ノブレス・オブリージュ *1の精神を思い出しました。
本当にそうだね。お金がある人はお金を出す、体力がある人は体力を使う、そろばんできる人はそろばんで役に立つ。誰かの役に立つということが、何より大事なんだなと思います。

*1 「高貴さは義務を伴う」を意味するフランス語。身分の高い者や権力・財力を持つ者は、その特権に見合うだけの重い責任と社会的義務を果たさなければならない、という道徳的な精神を指す

この記事で紹介した商品

及富(岩手)Induction-compatible 1848-established "Nambu Ironware" Iron-fortifying Kettle Miyabi Blue 1L ¥24,200 ★ 5.0(3) Induction-compatible 1848-established "Nambu Ironware" Iron-fortifying Kettle Miyabi Blue 1L 及富(岩手)IH-compatible 1848-established "Nambu Ironware" Iron Kettle for Boiling Water, Rich in Iron, Heisei Maru Arare, 1L ¥24,200 ★ 5.0(1) IH-compatible 1848-established "Nambu Ironware" Iron Kettle for Boiling Water, Rich in Iron, Heisei Maru Arare, 1L 及富(岩手)IH-compatible, founded in 1848, "Nambu Tekki" ironware. Iron-fortified water kettle/teapot, "Swallow Pot" tetsubin, 0.6L. ¥25,300 IH-compatible, founded in 1848, "Nambu Tekki" ironware. Iron-fortified water kettle/teapot, "Swallow Pot" tetsubin, 0.6L. 及富(岩手)Induction-compatible 1848-established "Nambu Ironware" Iron-fortifying Frying Pan "Asano" 22cm ¥22,000 Induction-compatible 1848-established "Nambu Ironware" Iron-fortifying Frying Pan "Asano" 22cm 及富(岩手)Induction Cooktop Compatible 1848 Founded "Nambu Ironware" Iron Kettle for Boiling Water, Tetsubin Hensanju Arare, Black, 1.8L ¥38,500 ★ 5.0(1) Induction Cooktop Compatible 1848 Founded "Nambu Ironware" Iron Kettle for Boiling Water, Tetsubin Hensanju Arare, Black, 1.8L 及富(岩手)IH-compatible, 1848-established "Nambu Ironware" iron pot that releases iron, LABO2, 1.3L ¥26,400 IH-compatible, 1848-established "Nambu Ironware" iron pot that releases iron, LABO2, 1.3L