
静岡県内で唯一、鬼師として修行を積んだ女性瓦職人がいます。清水区にて1971年から瓦業を営む長澤瓦商店2代目の娘、長澤玲奈さんです。
1974年豪雨で消えた清水瓦復刻への活動から、瓦を屋根材ではなく素材として捉えたオリジナルプロダクトの制作まで。
瓦の魅力を発信し次世代に繋いでいく長澤さんの仕事に、前後編にわたって迫ります。前編では、知られざる鬼瓦制作の現場をお届けします。
長澤玲奈さん
静岡県出身。長澤瓦商店株式会社2代目の娘にあたる瓦職人。 鬼瓦師としての修行を積んだ静岡県唯一の女性鬼師「鬼玲(きれい)」として瓦アクセサリー製作を行う。
※記事内容は取材当時の情報です
#1 割れない鬼瓦をつくる、緻密な工程
美術品ではなく屋根材として、頑丈さを出すために
──今日見せていただいているのは、手のひらサイズの鬼面ですね。どんな工程で作られているんですか?
型から起こしてきたパーツを削ったり切り落としたりして、土台を一つひとつ接着していく工程です。
ただくっつけるだけだと割れてしまうので、しっかりと接着するのに何工程も必要です。牙も型にはないので後付けで作っています。だから顔がちょっとずつ違うんですね。

この「かき破り」という工程が肝心で、粘土をつけるときは接着剤を使うのではなく、粘土同士でくっつけます。
竹ベラで十字に線が交差するようにしっかり深く引っ掻いて、両方噛ませた後にパーツを乗せてよく押し付ける。浅くやってしまうとくっつかないので、この深さが大事なんです。
──小物でも、大きな鬼瓦を作るときも同じ工程なんですか?
一緒です。粘土同士をくっつけるときは必ずこれをしっかりやらないと。鬼瓦って屋根材なので、美術品という考え方よりも、頑丈でなければならない屋根材という考え方が前提にあります。どう頑丈に作るかということを大切にしています。

さらに、必ず角を金ベラで「面を取る」という工程もします。角がなくなって丸くなることで割れにくくなる。だから鬼瓦って実は細かい面が全部入っていて、直角の部分は角が立ちすぎないように作られているんです。
パーツとパーツをくっつけた後も、もう一度溝を消して、粘土でまたかき破りをする。何回も何回も割れを防ぐような工程を繰り返します。それはちょっと他の芸術品にはないような特徴かなと思います。

#2 鬼を「怖く」する技法
屋根の上から見下ろす顔。下から見上げた時に初めて完成する表情
──鬼瓦を作る上で怖くするためのポイントってあるんですか?
まず一つ目が、パーツが上からかぶっているということ。鬼瓦って屋根に登るのが前提なので、正面から見てではなく、下から見上げたときに顔が怖くなっているかが大事なんです。
だから眉毛や頬が上からかぶさるように作られています。

もう一つが、鼻と耳の位置です。人の顔って本来、鼻と耳は同じラインにあるんですよ。でも鬼瓦は鼻と耳がすごく斜めに逆になっていて。
これによって人間離れした、血気盛んで怒っている迫力のある顔を作り出しています。
──笑っている鬼もいますよね。怖くない鬼瓦もあるんですか?
笑っている鬼は福を呼ぶ鬼で、怒っている鬼が厄除けになります。どちらも迫力は大事なので、基本的に鬼の鼻と耳はこの位置です。
あとはここの数珠と呼ばれる部分。鬼瓦によって少し変わることもありますが、基本的には108の数になるように作るよう心がけています。

──三分割の石膏型を使うのも、その「怖い顔」を作るためなんですか?
そうなんです。普通の型だと全部台形になっていないと型から外れないので、どうしても傾斜がついてしまう。
それだと鬼の顔が怖くならない。だからあえてここと分けることで、型が斜めに取れるように作ってあるんです。

そうすると型なのに、パーツが覆いかぶさるように作れる。眉毛や目がかぶさっているように作れるんですね。
この作業はうちの中でも少数の選ばれた人たちしかできません。必ず作った後に私がチェックして、ひびがないか、綺麗に作れているか、パーツの磨きも全部確認してから焼き上げています。
#3 瓦の色は、焼き方でつくる
生ガスと炭素と、密閉の時間。いぶし銀が生まれるまで
──窯の前に来ましたが、瓦の焼き方は陶芸とはまったく違うんですか?
陶芸は素焼きしてから釉薬をつけて二度焼きするやり方が多いんですが、瓦は違います。この白地の状態のまま、釉薬もかけずに直接窯に入れてしまいます。一度焼きが特徴です。
しかも瓦はどんな窯でも焼けるわけではなくて、瓦専用の窯じゃないと焼けない。この窯は静岡市で唯一の瓦専用の窯なんです。
──あのオレンジ色の部分は何ですか?
ここが特徴的な部分で、窯屋さんが見ると「何これ」と戸惑うぐらいなんですが、下からバーナーを通して炎を出し、窯を1100度まで上げていきます。
そして窯を密閉して冷ます。そこへガス缶から直接、生ガスを入れるんです。
ガスが充満することで中の酸素がなくなって、ガスの中の炭素が粘土に結びついて、粘土がいぶされて炭化する。だからいぶし銀色に変わる。
炭を作るのと同じようなイメージです。瓦って釉薬ではなく、焼き方で色をつけるから特徴的なんですね。
──酸素が入るとどうなるんですか?
いぶし銀にならないんです。不完全燃焼を起こしているから銀色になる。いぶされている状態なので、酸素が入ると燃えてしまって、銀膜が乗らない。茶色っぽくなってしまいます。
これが失敗したものなんですけど、こっちは最高温度が高すぎて表面の銀膜が焼けてしまって黒っぽくなっている。
こちら側はガスをかける温度が低い状態で始めてしまったので、表面が穴だらけになってしまった。この燻しの銀色は、めちゃくちゃシビアな世界です。
昔のダルマ窯の時代は薪で焼いていて、最後の工程では炉口(ろぐち)を密閉した後に松の葉を詰めると、松のヤニがうまくかかっていぶし銀色になっていたそうです。
清水には三保の松原がありますから、松の葉を集める子どもたちのアルバイトがあって、それを使っていたと聞いています。
