新しく物事を始める時、始める前から立ちすくんでしまったり途中で諦めてしてしまった経験はありませんか?
新潟県村上市には、「歴史ある大切な街を残していきたい」そんな思いを貫き、5年でムーブメントを起こして全国から注目を集め、18年目で行政による都市開発をストップさせて、歴史を生かしたまちづくりを実現した人がいます。
それが村上で約400年に渡って地域の食文化を伝えてきた家の15代目、株式会社きっかわ代表取締役社長の吉川真嗣さんです。

吉川真嗣さん
株式会社きっかわ 代表取締役社長。千年鯉きっかわ15代目。昭和39年新潟県村上市生まれ。1990年に家業「味匠 喜っ川」に入社。2015年より現職。昭和39年新潟県村上市生まれ。1990年に家業「味匠 喜っ川」に入社。2015年より現職。2004年国土交通省より「観光カリスマ」に選定され、内閣官房より「地域活性化伝道師」に認定される。
(※記事内容は取材当時の情報です)
都市開発から歴史を生かしたまちづくりへ。
たった一人で始めたまちづくりが、街の人を、行政を、全国の人を動かした、その「コトを起こし、実現するヒント」を紐解きます。
村上市の「歴史を生かしたまちづくり」
最初に吉川さんが実際に行ったまちづくりの実績をご紹介します。
吉川さんの地元・新潟県村上市で道路拡幅工事を伴う近代化の計画が策定されたのは1998年のこと。趣ある町屋が残る城下町の魅力が失われてしまうと吉川さんは一念発起し、一人で手書きの町屋マップを作ることからまちづくりの活動を始めます。
徐々に賛同者を増やしながら、60軒もの町屋にさまざまな人形を飾る春の「町屋の人形さま巡り」、秋には屏風を飾る「町屋の屏風まつり」といったイベントも立ち上げていったことで、村上には全国から人が訪れるようになりました。
▲「町屋の人形さま巡り」の様子
さらに活動開始から5年のうちに無機質なブロック塀を黒塀で覆う「黒塀プロジェクト」や、町屋の外観を改修するプロジェクトなども立ち上げていった結果、まちづくりの骨格ができあがり、2016年に行政は近代化の計画を中止し、歴史を生かしたまちづくりに方針転換を決定。
現在村上は古き良き城下町の風情を感じられる街として、年間30万人もの人が訪れるまでになりました。
詳しい内容は、ぜひこちらのコラムをご参照ください。
01.できる範囲で頑張ろうとしない。
なぜ村上市はたった5年という短期間で、まちづくりの道筋を作ることができたのでしょうか?
とっても気になるその秘訣を「まず『できる範囲で頑張ろうとしなかった』ことなんです」と吉川さんは語ります。
謎かけのような言葉ですが、「できることを頑張ろう!」とすると100%の力を出さずに、そこそこ頑張ればいいという甘い気持ちが出てしまうとのこと。
吉川さんは初開催の人形さま巡りの参加店を募る時に「初めてだから5~6軒でもいいじゃないか」と言われたそうです。しかしそんなできる範囲ではなく、「必ず成功させるんだ」という強い意志で挑戦したからこそ60軒もの町屋が参加し、マスコミや全国の人たちから注目されたのだろうと振り返ります。
▲「町屋の人形さま巡り」は初年度にNHKのアート番組「日曜美術館」で紹介され、全国から3万人もの観光客が押し寄せた。
02.みんなで頑張ろうとしない。
「みんなで頑張ることはいいことだけど」と前置きをしつつ、「大切なのは『みんなで頑張ろうとしないこと』なんです」と吉川さん。
「みんなで頑張るんです」と言う人は、自分でリスクを負わずにやろうとする人で、一緒にやることで甘えが出て、責任を持って遂行する気持ちが生まれなくなってしまうのです。
「賛同する人がいなくても、大切なことだから絶対にやる!」と立ち上がった時に、初めて応援してくれる人が集まり、みんなで頑張ろうといった時に爆発的な力になると、実感を込めて吉川さんは教えてくれました。

▲かつての村上市の街並み。古びたアーケードが商店街全体を覆っていた。
03.まずコトを起こして、結果を見せる。
新しいコトを始めるには、まずいろいろな人に相談して合意形成をしながらプランを作って…と思いきや、吉川さんは真っ先にコトを起こしました。
最初に吉川さんが町屋マップを作った時は、一人で一軒ずつ「自分で作るから紹介させてください」と声をかけて回り、それから人形さま巡り、屏風まつり、黒塀プロジェクト、外観再生プロジェクトへと発展。これらの取り組みから街を訪れる人が増え、マスコミに取り上げられ、景色が変わっていった目に見える変化に、街の人の反応が変わっていったと言います。
「いきなり『町屋の外観を昔に戻しましょう』と言っても、誰も相手にしてくれません。本気の挑戦を繰り返して実際に繁盛する様子が目に見えると、否定的だった人たちの気持ちも段々変わっていくんです」(吉川さん)

▲ブロック塀を黒い板の塀で隠して町屋の風情を引き出した。
04.平凡化、反対論…“あるある”の「壁」の対処法
新しいことをしようとすると現れるのが「企画を平凡化する壁=内の壁」「組織の壁=外の壁」の二つの壁。
吉川さんは、どちらの壁も突破する鍵は「少人数」にあると言います。
ユニークな企画も、大勢で考えるとどんどん個性が削れていってしまう=内の壁に阻まれてしまいます。本当に気の合うごく少人数で企画することでユニークさが磨かれ注目されるものになるのです。
そして、新しいことをしようとすると組織からの強い反対=外の壁が起こりがち。だからこそ、希望者だけを募ってやることが大切で、吉川さんは人形さま巡りを企画する際には、既存の組織ではなくやりたい人の集団・村上町屋商人会を結成しました。


▲アーケード内の空き家も古く再生させ、町の魅力に。
05.組織の中で勝負しないといけないときは?
吉川さんは自身で作った村上町屋商人会の中でも強い逆風を受けることがありました。そんな時、前に進めた秘訣が3つのリスクを引き受けることでした。
それが「お金を集めるリスク」「賛同者を集めるリスク」「何かあった時の責任のリスク」です。
「ここまでリスクを負って迷惑は一切かけないから、この部分だけお願いできませんか?」と相談し、それでも拒否された時は「1回だけやらせてください、失敗したら潔く身を引くから」と頼んで、その1回に全力投球して成功させる。そうすることで物事が動いていく積み重ねだったそうです。
06.才能に頼らないユニークなアイディアの出し方。
村上の取り組みの数々は、吉川さんがアイディアマンだから成功したのかと思いきや…「なかなか新しい発想なんて出ません。だから女房と二人で全国のまちづくりをしている地域へ足を運んで猛勉強したんです」と、吉川さんは当時の地道な道のりを語ります。
「大勢の人に会い、学び、アンテナを張っていくと、ある時にアイディアの花がポンと咲く。それをどうしたら村上に合う形になるか磨きをかけていくんです」と話すように、吉川さんは100件以上の現場を巡ってインプットしながら、画期的な企画を生み出していったのです。
▲当時のまちづくりの話を語る吉川さん
07.逆風に立ち向かえるエネルギーの源は?
新たな挑戦に対する批判の声は珍しくありません。行政と真逆の道をいく吉川さんも「投げ出したくなることは何度もありました」と話すほど逆風は強いものでした。
それでもめげずにやってこられた理由が「全国のまちづくりのプレイヤーの存在」だと言います。
「全国で出会った、村上よりもずっと大変な状況下ですごいことをやっている人たちから、一番大切な「あの人たちに負けてたまるか」という強いエネルギーをもらいました」(吉川さん)
場所は違えど志を同じに挑戦する人たちの存在は、大きな力になるようです。
08.カリスマ性のリーダーシップはいらない。
吉川さんが立ち上げたプロジェクトは、回を重ねると段々「吉川さんが好きなコトをやっている」と内部に不満が溜まり、うまくいかなくなっていきました。一方で「吉川さんのことを好きではないが、やっていることはいいことだから一緒にやる」という人も現れました。

▲吉川さんのお店「千年鮭 きっかわ」も店舗を古く改修したところ10倍を超える人が訪れるようになった。
そこで吉川さんが気づいたのが「自分にはリーダーシップがないけれど、人の助けがあって成立する『リーダーシップのないリーダーシップ』がある」ということです。
リーダーシップのないリーダーシップとは?
吉川さんが思うリーダーシップは、カリスマ性や頭の良さではなく、誰よりもそのことを大切に思う信念と実行力。特に世のため人のための行動に人はついてきて、絶体絶命の場面もその度に助けてくれる人が現れ、継続するエネルギーにつながっていくのです。
確かに、従来のリーダーシップのイメージとは異なる、でもプロジェクト実現につながるリーダーのあり方ですね。
09.最初に大切なことは応援者の数よりも志。
「まちづくりを始めた時に『振り返って二人いれば、迷わず進め』という言葉をくれた人がいました。私がスタートラインに立った時、応援してくれたのは家族だけ。その支えがなければやってこられなかったですね」と吉川さんは振り返ります。
仮に応援してくれる人がほとんどいなくても、地域や人の幸せを思って行動すれば、仲間が現れ、組織になり、街の方向を変えるような大きな力になっていくというこの教え。
まさにその言葉通りに、志を大切に、吉川さんはまちづくりを続けて都市計画が撤回されるところまでやり遂げました。
▲村上市の現在の街並み 。イベントだけでなく通年で観光客が訪れる町になっている。
今回教えていただいたノウハウを実際に駆使し、幾多の困難を乗り越えてきた結果、吉川さんは言います。
「今は幸せな気持ちでまちづくりをやっています」
そして村上の街には、全国から歴史ある街並みを楽しみに訪れる人たちの姿が。
まちづくりに限らず、何か成し遂げたいと思った時に、ぜひ思い出してみてください。
きっとあなたの覚悟と挑戦を後押ししてくれるはずです。