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奥様ではなく、亭主が淹れる。明治の町家で蘇る、村上「亭主の茶」の流儀──嘉門亭・吉川真嗣<前編>
「名物菓子がなければ」──京都からの客人の一言に、菓子を一度も作ったことがない状態から挑戦が始まりました。辿り着いたのは「菓子は、甘いものを組み合わせて作る料理」という哲学です。干し柿に発酵バターと餡、海苔のクリームチーズ、雪下人参や冬みかん。村上の文化を一口に込めた、嘉門亭ならではのこだわりとはどのようなものなのでしょうか。
吉川真嗣さん
1964年、新潟県村上市生まれ。千年鮭 きっかわ代表取締役。1998年に「村上町屋商人会」を立ち上げ、町屋を活かす観光事業や賑わいづくりを推進。「町屋の人形さま巡り」など数々の地域イベント創出により村上の観光振興に大きく貢献し、国交省観光カリスマ、地域活性化伝道師にも選出。
※記事内容は取材当時の情報です
#3 菓子未経験からのスタート
「名物菓子がなければ」──京都からの客人の一言が導いた、ゼロからの挑戦
──お茶だけでなく、菓子も提供されていますが、これはどのような経緯で?
村上のお茶の文化に光を当てるって言って、お茶だと決めたのは良かったんです。
しかし、京都から来られた方に、「京都の有名なお茶屋には必ず名物菓子があります」と。「名物菓子ができればいいですね」と言われた時に初めて、「あ、そうか」と。
お茶を飲むだけでは、やっぱり1つ足りない。そこに菓子がつくから、お茶も引き立ち、楽しいひとときが過ごせる。「ああ、菓子を作らなければいけないんだ」って、その時初めて気づきました。

──それまで菓子作りの経験は?
菓子を作ったことが1度もなかったんです。さあどうするんだとなって。
きっかわは、みんな手作りで、ものづくりをしてきたので、菓子作りを人にお願いするという気持ちにはその時ならなかったんですね。
まあ、自ら色々研究する中でたどり着いたのが2つです。
1つは干し柿を使ったものです。菓子の原点を考えると、本当に甘いものがなかった時代、干し柿なんかがその菓子の原点と言えるわけですよね。それで昔は楽しく菓子をいただいてた。
漢字も「菓子」という漢字は、草冠の下に果実の「果」を書いて、子供の「子」と書きます。これを読み解くと、「果物から生まれ出でたもの」と。
ですから菓子の原点とも言える、干し柿を出すことにしました。

──もう1つは、どのような気づきだったのですか?
いろんな菓子を食べて研究する中で、ある時、山椒を使った菓子が出てきたんですね。
山椒なんてお菓子に合うのかと。一体どんな味だかなんて想像できなかったんですけどね、それくださいって言って。そしたら、素晴らしく美味しかった。
その時に、菓子というのは、甘いものを組み合わせて作る料理と同じなんだなと。自分なりにそういう風に思ったんですね。
私は、いろんな料理作ったり商品開発をしてきたので、料理であれば自分でもできると思いました。
お菓子作りの経験はありませんが、甘いものを加えた料理なら作れると思ったわけです。

──料理として菓子を捉えることで、道が開けたんですね。
珍しさと干すというのが、大きなコンセプトになっています。
その中で一体どんな菓子が作れるかなと考え、他でないような菓子が生まれてきたのが、この嘉門亭ならではの一口菓子なんです。
#4 干し柿、海苔、雪下人参。他にない菓子が生まれる理由
料理として菓子を作る。嘉門亭ならではの一口菓子の世界
──具体的に、どのような一口菓子を提供されているのですか?
例えばこちらが干し柿、佐渡のさつきですけども。干し柿の中に、発酵バターと餡がサンドされてます。

そして、冬みかんを干したものの中には生姜を刻んで入れた風味あるクリームチーズ。それと海苔で作ったクリームチーズの一口菓子です。

雪下人参で作った人参を揚げて甘みをぐっと凝縮したものは、名前が「愛しのスイートキャロット」というものです。

3〜4種類のナッツを周りに施したものの中には、クリームチーズを包んでいます。
──どれも、他では見たことのないような組み合わせですね。
珍しいっていうのと、この干して作るというのが、「嘉門亭」の一口菓子のコンセプトですので。朝スタッフが作って、お出しするということをしてます。
──お茶のコースの中で、この一口菓子はどのように楽しむのですか?
お茶を飲んでいただきながら、途中で、この一口菓子をお出しするんです。「亭主の茶」の上煎茶コースでは、眼の前で菓子の説明をしながら、お好きな一口菓子を2つ選んでもらっています。
──見本を見ながら選べるというのも、楽しい体験ですね。
お茶以外の体験にもこだわっていて、先程の菓子を入れていた箱も、メニューも入れていた箱も村上の堆朱※2なんです。

※2 村上堆朱・・新潟県村上市に伝わる木地に繊細な彫刻を施し、天然の漆を何層も塗り重ねて仕上げる漆器の総称
こうやって村上の文化を、お客様に流れの中で紹介していく。そんなことをやってるんです。

#5 本物だけが持つ、静かな説得力
父が愛した道具で紡ぐ、変わらない美しさ
──店内の随所に、素材や道具へのこだわりを感じます。
例えば、水の話しをすると、本店の「きっかわ」は大昔(江戸時代から終戦まで)造り酒屋でした。
その仕込みで使っていた井戸水を朝汲んできて、そしてここでお出ししてます。軟水の少し固めで、非常に味のバランスのいい水です。昔の水の味や形も楽しめます。

──中央の大きなテーブルも、圧倒的な存在感ですね。
長岡で古材を扱う井口製材所にあった、5m50cmある欅(ケヤキ)。それを3枚合わせて、こんな大テーブルを作ってます。

このテーブルを提案してくれた設計士の方は、ここにインパクトのある存在があったら、サロンがすごく特徴付けられるでしょと。
──形にするまでには、相当な苦労があったのでは。
描けても、実際にそれを形にするってなったら材料から集めとかなきゃいけない。材料があっても、それを作ってくれる職人さんがいないといけないので。
私は、このテーブルを作る現場の動画を取材したんですよ。
板をまず合わせて、大きな3枚に線を引いて、ぎーっと切って。バーっと削ってって、本当見事に作っていくんですよね。
──空間づくりにもこだわりを感じます。
あとは、和洋折衷の雰囲気を作ろうと思って。女房とね、ああだこうだと。男の私の感覚とすれば、こういうシャンデリアを下げるのは気恥ずかしかったのだけど、女房がここに下げたらいいと。

そして下げたら、なんか妙にマッチしてしまって。これは私のセンスではありません(笑)。
──お茶を淹れる道具にも、こだわりがあると。
サロンのベースになってるのが、私の父ね。先代がやっていたお茶の形なんですよ。お茶の味も、出し方も。
湯沸かしは、父が大切に使っていた茶道具のひとつで。湯沸かしは、玉川堂さんのものを使ったんですね。それに習って玉川堂さんの湯沸かしを使っています。

──玉川堂さんの銅器は、それ自体が芸術品ですね。
1枚の銅板を金槌で叩いて、この湯沸かしの形にするっていうのが、すごいでしょう。
本当、すごい技術だなって思います。玉川堂の湯沸かし器は、なんと可愛らしいっちゅうか、格好いいというかね。色も他にない良い色だなと思ってるんです。
本物のものづくりですよね。
