160年前、作並こけしは子どものおもちゃだった──平賀こけし店・平賀輝幸<前編>
宮城・作並温泉の山あいで生まれた作並こけしは、約160年の歴史を持ち、東北最古のこけしとも言われる伝統工芸品だ。平賀輝幸さんは、作並こけしの現在ただひとりの作り手。職人だった祖父や父の背中を見て育ち、小学生からこけし作りに関わり続けている。「これしか選択肢がなかった」と笑う平賀さんに、伝統を守るとはどういうことか伺った。
平賀輝幸さん
1972生まれ。宮城県出身。祖父・父の代から続く家業を受け継ぎ、高校卒業後から本格的に作並こけしの製造に従事。平成26年(2014年)の全日本こけしコンクールで最高賞の内閣総理大臣賞を受賞するなど現代こけし界を代表する匠の一人。また、作並こけし最後の作り手でもある。
(※記事内容は取材当時の情報です)
#1 おもちゃから鑑賞品へ
東北12系統で最古と言われる作並こけしの歩み
──はじめに、作並こけしの基本的な形について教えていただけますか?
こちらが伝統こけしです。昔からの作並こけしの形で、胴体が細いのが特徴なんですよ。この細さが一番ベーシック、基本な形ですね。
だんだんと時間が経って鑑賞用になってからは、安定感を持たせるために胴体を太くして、台座をつけたりもするようになりました。地震とかでも倒れないようにね。
──そもそも、こけしはどのように生まれたのでしょうか?
元々は子どものおもちゃとして作られたと言われています。男の子はこま、女の子はこけし人形で、着せ替え人形のような形で遊ばれていたとも言いますね。こけしの上に布を被せて遊んだりもしていたようです。
──作並こけしの特徴を挙げるとしたら、どんなところでしょう?
やっぱり胴が細くて、逆三角形なのが昔の形ですね。今の顔よりも少しきつめな表情をしていました。
戦後、うちの曽祖父の代からこういう柔らかい顔になったんですけど、それも一応伝統こけしです。
──こけしには全国でいくつかの系統があると聞きました。
東北では12系統に分かれていて、その中のひとつが作並こけしです。
北は青森、南は福島まで、それぞれに系統がありますね。文献で証拠が残っているなかでは、作並が一番古いんじゃないかとも言われています。150〜160年以上の歴史があります。

──なぜそんなに長く残ってきたのでしょう?
どうなんでしょうね。
ただ、顔のことについての記録はあまり残っていないんですよ。昔のこけしがどんな顔だったか詳しくわからなくて…
うちのひいおじいちゃん以前のこけしは残っていないし、昔の人たちは古くて汚れたこけしを大掃除の時に焼いてしまったりもしていたようですから。価値もわからなかったんでしょうね。
── 一度、途絶えたこともあると伺いました。
そうなんです。作並に木地師(きじし)がいなくなった時期があって。
それで、うちのじいちゃんが岩松旅館の旦那さんから「山形へ行って修行してこい」と言われて行ったんです。
山形で修行して、そちらの親子から技を教えてもらい、嫁さんをもらってこちらへ帰ってきたと。だから宮城県で生まれたものが一旦なくなって、また山形から戻ってきたわけです。
#2 手とり足取りは、一切なかった
小学生で皮むき、中学生で木材運び。見て学び、身で覚える
──平賀さんはいつ頃からこけし作りに関わるようになったのでしょうか?
木材の皮むき作業は、もう小学生の頃からやっていましたね。手伝いとして。工程全体は、ちいさい時からずっと見ていたけれど、手取り足取り教えてもらった記憶はなくて、やっぱり身で覚えるものですね。
──見て学べ、という世界だったんですね。
そうです。親父が40代の頃から体が悪くなってきたので、中学校の頃にはもう木材運びから全部自分でやるようになりました。
ろくろの作業も、最初はただ削るだけの作業をずっとやらされて。じいちゃんが削って、親父が削って、その残った時間で自分の作品を作ったりして。
──16、17歳でそれをずっと続けられていた、当時はどんな気持ちでしたか?
高校もやめちゃってましたから、夕方頃に友達がバイクで来てね、早めに終わらせて一緒に遊びたいなとかは思っていました。
でも同じことをずっとやっていて「嫌だな」とも思ったけど(笑)
150年の伝統もあるし、色々あったけど現在まで続けて来ました。毎年お盆とお彼岸に初代と2代目のお墓の掃除に必ず行ってます。
──長く続けていくために、何かされていたことはありますか?
うちのじいちゃんは嫌になったら、裏畑の草むしりをしていたそうです。
私は家庭菜園で野菜を育てたりしていましたね。そっちに行きすぎてみんなから言われたこともありましたが(笑)
でも他のこけし屋さんは釣りに行ったりしながら、それでもあれだけ作るんですから。好きなことで気持ちをリフレッシュしながらこけしも作るっていうのは、やっぱり大事なことだと思います。
