
2019年。ローマ教皇フランシスコが来日した際の話。
東日本大震災の津波に耐えた、「奇跡の一本松」をご存知ですか?
その奇跡の一本松から、十字架がつくられ、ローマ教皇へと贈られました。
日本の職人からローマ教皇へ、祈りと希望を未来へつなぐ特別な贈り物。その保管用の箱に選ばれたのが、この「茶箱」でした。
茶箱は湿気や虫から大切なものを守り、何十年、何百年という時間を超えて大切なものを保管する箱として高く評価されたためです。
改めて、昔から保管力が評価されていた茶箱の魅力とは何なのか、紐解いていきましょう。
江戸時代、日本茶を輸出するために生まれた箱
茶箱が生まれたのは、江戸時代後期のこと。
当時、世界では中国茶が主流でしたが、アヘン戦争をきっかけにその流通が大きく揺らぎました。そしてその影響から、日本茶が世界中から注目される存在になりました。
急増する海外からの注文に応えるため、当時の日本人たちは考えに考えを重ねました。
「数か月にも及ぶ船旅の間、どうすれば茶葉を湿気や潮風から守り、最高の状態で届けられるのか」
そんな問いから生まれたのが、茶箱だったのです。
杉の箱の内側をトタン(亜鉛めっき鋼板)で覆い、気密性を高めることで、湿気や虫、塩害から中身を守る。こうして生まれた茶箱は、日本茶を世界へ送り出すための「輸送箱」として活躍しました。
やがて明治時代になると、その高い保存性能は茶葉だけにとどまらず、万国博覧会へ出品する工芸品や絹織物など、日本を代表する品々を海外へ届けるためにも使われるようになりました。
長い航海を経ても、中の品は傷まず、美しいまま。その性能は海外でも高く評価されたと言います。
木、金属、和紙。それぞれの長所を生かした日本人の知恵
茶箱の本体には杉、内側にはトタン(亜鉛めっき鋼板)が張られ、それらの継ぎ目には和紙が巻かれています。
一見するとシンプルな構造ですが、これらが組み合わさることで、冷蔵庫のない時代においても、お茶の品質を守り続けてきました。
① 杉が湿度を整え、鮮度を守る
茶箱の外側には、調湿性に優れた杉が使われています。
杉は周囲の湿度に合わせて呼吸するように水分を吸ったり吐いたりし、急激な温度や湿度の変化をやわらげます。そのため、箱の中はお茶や食品の保存に適した環境に保たれます。
樹齢30年前後の杉(間伐材)を使用。最低でも2ヶ月は風雨にさらし、重しをのせて乾燥させ、歪みや反りが少ない材木を使用しています。
② トタンが空気を遮断し、酸化や虫から守る
内側にはトタン(亜鉛めっき鋼板)が張られています。トタンは空気や湿気を遮断し、酸化や虫の侵入を防ぐ役割を担っています。
密閉性という木の弱点を補うことで、お茶の香りや風味を長期間守ることができました。
③ 和紙が隙間をふさぎ、気密性と強度を高める
木板の合わせ目や箱とトタンの境目を保護するため、要所には和紙が巻かれ、米粉のでんぷん糊を使って一枚一枚丁寧に貼り合わせられています。
この和紙が細かな隙間をふさぐことで気密性をさらに高めるとともに、箱全体の強度も向上させています。
木、金属、和紙。それぞれ異なる素材の長所を生かしながら、一つの保存箱として完成させるのは、日本ならではの工夫ともいわれています。
“100年前の新聞紙”も色褪せない保存力
茶箱の保存性能を物語る、こんなエピソードがあります。
ある古い家に残されていた茶箱を開けると、中から約100年前の新聞紙が見つかりました。
普通であれば黄ばみ、破れやすくなっていても不思議ではありません。しかし、その新聞紙は驚くほど良い状態で残っていたといいます。
もちろん保存環境にも左右されますが、それほどまでに茶箱は長期間にわたって、中の環境を安定させる力を持っています。
だからこそ現在でも、茶葉だけではなく、お米や乾物、着物やドレス、写真、カメラ機材、レコードなど、湿気や酸化、虫食いから大切なものを守る箱として愛用されています。
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茶箱の様々な楽しみ方
カセットテープ、パスタ、陶器、ドレスや着物、シルクなどの布、乾物、カメラやレンズなど、劣化しやすい大切なものを入れておくのに、茶箱が適しています。
作り手「前田工房」について
作り手は、静岡県川根本町に工場を構える、茶箱の製造工房。
廃業を決めかけていた先代の親方・前田さんから技術と工場を引き継ぎ、2020年に正式に事業継承しました。前田さんのお名前をいただいて「前田工房」と名付けています。
最盛期には全国に100件以上あった茶箱屋も、今や全国でほぼ3社のみ。
前田工房はその数少ない一軒として、江戸時代後期から続く茶箱づくりの技術を守り続けています。
地元・川根本町に工場を作り、地元の人を雇い、地元の産業として残すことにこだわり、職人を育てながら、茶箱を次の世代に届けることが前田工房の使命です。
まとめ
江戸時代後期、日本茶を世界へ届けるために生まれた茶箱。
湿気や潮風から茶葉を守るという難題に向き合った日本人の知恵は、150年以上の時を経た今も、ほとんど変わることなく受け継がれています。
木と金属、そして和紙。
異なる素材の長所を生かし、職人の手で一つひとつ丁寧につくられる茶箱は、衣類や写真、カメラ、食品など、大切なものを守り続けています。
保管用の箱としても、インテリアとしてもおしゃれな茶箱、ご興味があれば、ぜひ一度手に取ってみてください。
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