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300年続く「岐阜提灯」の歴史と手仕事──浅野商店・浅野有誠<前編>
全国で初めてCADを使った提灯の設計に取り組んだのが、岐阜提灯の老舗・浅野商店です。きっかけは、造形に厳しいデザイナーたちとの仕事でした。
内田繁さんと共同開発した照明「ペーパームーン」、東京スカイツリーの展示オブジェ。そして、かぶれる提灯「ちょうちんはっと」など。
昔からある岐阜提灯の技術を用いて新しい挑戦を続ける浅野商店さんに、ものづくりの裏側から提灯文化の今後まで伺いました。
浅野有誠さん
岐阜県出身。1917年創業の提灯老舗・浅野商店4代目 。1998年、デザイナー内田繁氏と照明「ペーパームーン」を共同開発 。CAD等の最新技術を導入し 、「ちょうちんはっと」など現代の暮らしに合う明かりを追求し続けている。
※記事内容は取材当時の情報です
#3 一流デザイナー×伝統工芸品
インテリアにオブジェ、新しい提灯の可能性
──型の設計にはCAD *1を使うと聞きました。伝統工芸にはめずらしい取り組みですね。
浅野有誠さん:
うちが全国で初めてCADで提灯の型を設計したんです。
きっかけは、デザイナーさんと一緒に作るようになったことです。デザイナーさんというのは造形に厳しい。
発表のタイミングもあるので納期を正確に守らなければならないし、新しい構造を作ろうとしても職人にそれを説明してやってもらうのは難しい。
だったらどうするかと考えていた頃、ちょうどWindowsが95になってCADが一般でも買える値段になった。それで使い始めたんですが、当時は本当に珍しかったんです。
*1 コンピュータを用いて設計や製図を行うツール

──インテリア照明のシリーズ「ペーパームーン *2」は、デザイナーの内田繁 *3さんとのコラボレーションから生まれたとうかがいました。どんなきっかけだったんですか。
浅野有誠さん:
お盆提灯だけでは、これからの時代どうかなと感じていて。何か新しいことをやるとしたらインテリアだな、と思っていたんです。
ただ、自分ではどういう形のものを作ればいいかわからない。だから、そういう話ができるデザイナーと一緒にやるしかないとずっと思っていたら、岐阜での展覧会イベントで内田さんをご紹介いただく機会があって。
ご挨拶して「もしよかったら」と申し上げたら「いいよ」と言っていただいて。思い続けていれば、何かチャンスはあるもんですね。
*2 ペーパームーン|紫綬褒章受賞*創業100年の提灯屋が作る「和紙ランプ」
*3 日本を代表するインテリアデザイナー。桑沢デザイン研究所第9代所長。
──超一流と言われるデザイナーさんとの仕事は、難しかったのでしょうか。
浅野有誠さん:
逆です、逆。(笑)
内田さんもそうなんですが、超一流と言われる方というのは、こちらがそれなりの技術を持っているとわかってくれた瞬間に、すっと話し合いができる。
鋭敏でセンスがいいから素直なんですよ。難しかったのは、デザイナーさんが何を大切にしているかを理解することでしたね。
──ペーパームーンの独特の丸みのある形には、何か意味があるんですか。
浅野有誠さん:
内田さんに「これはどういう発想から?」と聞いたことがあるんです。
そしたら「お前ら、デザインだぞ」って。商品名は「02」で、ひょうたん型とかお餅型とか、人それぞれにイメージが湧く形なんですが、内田さんとしては「デザインとしてのオブジェ」という意識。
後からスタッフに聞いたら、お茶で使う「風炉(ふろ)」のイメージからインスパイアされた形だそうです。
そこが一流のデザイナーのすごみで、そういうことが結構勉強になりましたよ。
──他にも印象に残っているコラボレーションはありますか。
浅野有誠さん:
スカイツリーの展示オブジェは面白かったですね。チケット売り場のところに高さ3〜4mぐらいの提灯のオブジェを作ったんです。
大きな提灯同士を糸で繋いで、吊り下げる構造で。あれも、全く新しいことはしていなくて、昔からある技術を応用しただけなんですけど、そうやって考えると面白いものができる。
他にもジャスパー・モリソン *4さんとコラボしたこともありましたし。
*4 イギリス・ロンドン出身の世界的プロダクトデザイナー
──有名なデザイナーさんとのコラボレーションを重ねていったのには、意図があったんですか。
浅野有誠さん:
正直に言うと、下心満々ですよ(笑)。
CADで自由な形が作れるようになったので、その技術力を上げることと同時に、自社のイメージと「提灯」というものをスタイリッシュなものだというイメージにするには、有名なデザイナーさんとコラボして発表すればいいだろうと。
それが結果として、デザイナーさんが何を考えているか、提灯としてどこまで実現できるかを学ぶ場にもなりました。

#4 光らない提灯
独自の構造に目を向けた、提灯ハット誕生の裏側
──拝見した中に「提灯ハット」という商品がありましたね。あれはどういう発想から?
浅野有誠さん:
ずっとインテリア照明をやっていると、提灯っていうのはどこまで行っても「中に明かりを入れるもの」じゃないですか。
でも、これだけ面白い構造があるのに、照明にしか使い道がないってつまんなくないですか、と思って。
この構造で何か違うものを作ってみたくて。帽子だったら被ってもいいし、畳んだら小さくなるのがちょうどいい。それだけですよ(笑)
──確かに、提灯って「畳める」のが大きな特徴ですよね。
浅野有誠さん:
日本人って、何でもポータブルにしちゃう発想があると思うんですよ。ちゃぶ台も足が畳める、布団も畳める。
一つの部屋をいろんな用途で使うための工夫ですよね。畳めるという発想の最高傑作がひょっとしたらウォークマンかもしれない(笑)。
提灯が安土桃山の頃に「畳めるもの」として日本に根付いたのも、そういう日本人の思想と重なる気がします。

──提灯ハットは岐阜の長良川沿いのお土産物屋さんでも取り扱いがあるんですよね。反響はいかがですか。
浅野有誠さん:
反響はありましたが、爆発的に売れるというものでもないですね(笑)。
ただ、ランプシェードとして使われているお客様もいて、そういう使い方をしてくださるのは嬉しい。次に何か思いつくかというと、まだわからないですが、やっぱり遊び心がないとつまらないですから。
──今後、新たにやってみたいことはありますか。
浅野有誠さん:
クラフトワークショップみたいなものをやってみたいですね。
型がいろいろあるので、好きな型を選んでもらって、和紙もいろんな種類を置いておいて、その組み合わせでイージーオーダーの照明を作る体験。
できれば1泊2日ぐらいで、じっくりやってもらう。お金もかかるし誰がやるかという問題もありますけど(笑)、面白いと思うんですよ。
美濃和紙だけでもレース状のもの、厚みの違うものがあって、ひごの色や太さでも全然表情が変わるから。その組み合わせを自分で選べるというのは楽しいはずです。

浅野有誠さん:
提灯の技術は、基本的に昔からあるものを応用しているだけです。ただ、みんな同じものを見ているのに、それをどう使うかで全然違うものができる。
それが、この仕事の一番面白いところだと思っています。
#5 提灯文化のこれから
創業110年をむかえる 浅野商店が考える提灯
──お盆提灯という文化が、今どんな状況にあるかを教えていただけますか。
お盆提灯は、北から北海道、南は沖縄まで、北陸の一部を除けば全国にお客様がいらっしゃいます。
面白いのは、岐阜では実はお盆提灯を飾る文化がほとんどないんですよ。

──えっ、提灯の産地なのに?
そうなんです(笑)。全国にあれだけお客様がいらっしゃるのに、地元では飾らない。
文化というのは不思議なものですね。元々贈り物として贈られていたものが今はご自身で買われることも増えていて、特に和室が減ってきた分、このすっきりした筒型のデザインのものが現代のリビングに合うと好評をいただいています。
──インテリア照明としての提灯の良さはどんなところにあると思いますか。
和紙を使っているので、照明の中でも非常に軽いのが一つ。そして光を全体に広げられる。
よくあるライトは下だけとか横だけとか方向が決まっていますけど、提灯は丸みがあるので、部屋全体を均等にふんわりと照らしてくれる。紙だからこそできることですね。
──間接照明の文化についてはどのようにお考えですか。
日本の住宅文化はずっと、シーリングライトで部屋全体を明るく照らすというのが主流でした。
でも間接照明が一つあるだけで、部屋が本当に落ち着く空間になる。欧米だとシーリングライト自体がなくて間接照明だけというお家が多いと聞きますし、もっと日本にそういう文化が広まっていってほしいなと個人的には思っています。
──今後、浅野商店としてどんな方向に進んでいきたいですか。
「提灯っておしゃれだよね」「家に提灯が欲しいな」と思ってもらえるような商品を作っていくことが一番です。
照明でも照明じゃなくても、提灯があることで家が華やかになる、おしゃれになる、そういうものを作り続けたいです。
