計算しない美学と沖縄の自然が生む、焼き物のかたち──螢窯・山上學<後編>

前編・中編では、専門スキルを中心に修行を重ね、「陶芸家」という職業の成り立ちと、守破離を超えた「離品」という宇宙観を語っていただいた。最終回となる後編では、「計算しない」ものづくりの美学と、沖縄に惹かれて移住した山上さんが、サンゴ礁や海をテーマに創作する焼き物の世界に迫る。

山上學さん

1959年生まれの67歳。大阪出身。京都で陶芸と版画を学ぶ。1989年、栃木県茂木町に「螢窯」築窯。2004年沖縄県本島北部の大宜味村へ移住。沖縄の海をコンセプトにした独特の世界観とユーモアのある温かい人柄で多くのファンから親しまれる。

(※記事内容は取材当時の情報です)

第5章:計算しない、プロセスを楽しむ物づくり

アクシデントとアドリブの美学

──物づくりや人生において大事にされている事はありますか?

なんか今この、生きてるっていうこと自体が、すごく面白いっていうか。逆に、やっぱ楽しんだ方がいいんだよな。

しんどいこともいっぱいあるけど、なんか楽しみながら生きるっていうこと。僕、物を作るのでも計算しないもん。

お金もそうですよね。ただ数字を見てる認識でしょ。現物じゃないじゃないですか、架空じゃないですか。

何億を移して、本当に現物で動いてるお金ってすごく少ないみたいですね。

みんな架空のことで悩んだり、お金持ちになったりとかしてるんだけど、基本的に架空なんですよ。そうやって思うと、なんか気が楽にならない?

──話しを聞いているだけで楽しい気持ちになってきました(笑)改めて「計算しない」物づくりについて聞かせてください。

僕は、デッサンで描いて「こういうもの作りたい」っていう作家じゃなくて、やりながら考えていくんです。触りながら、「ああでもないこうでもない」と。

途中で変わる方が面白いよね、アクシデントとかアドリブとか、映画なんかでもアドリブを使う人って良いなと思うわけです。

──何か作ることが目的ではなくて、作ることそのものが目的なんですね。

そう。過程、プロセスが面白いんです。

頭の中で2次元のものを3次元にしてある程度まで考える人たちもいますが、今そういうのに興味がなく、なんか途中で変わる方が面白いよね。

縄文土器って、多分用途とは関係ないこといっぱいやってるんですよね。火焔型土器とか。

あれって弥生になると割とシンプルにデザイン化して、機能の方に行くでしょ。機能の方に行くと、やっぱなんかつまんないんだよね、遊びがないと。

第6章:沖縄の海とサンゴ礁が生む、焼き物の宇宙観

青と白が紡ぐ、御嶽(ウガン)と自然観のものづくり

──沖縄でもう20年ぐらいになるんですよね。この地を選んだ経緯を教えていただけますか?

経緯を簡単に言うと、焼き物を初めてやったのは瀬戸で、その後京都、関東と行って、最終的に沖縄に来ました。

そして沖縄のこの、聖地みたいなものに惹かれたんです。御願(ウガン)※5とかね。

※5 ウガン・・沖縄の伝統的な信仰における「拝み」や「祈願」のこと

沖縄って鳥居とかお社がないんですよ。そういう自然観っていうか、そういうところに意志があるとか、そういう要素は楽しいですよね。

物づくりでも沖縄の聖地、御嶽(ウタキ)※6みたいなものをテーマにしています。

※6 ウタキ・・集落の守護神や祖霊が祀られている琉球神道における神聖な「聖地」

──年間何個ぐらい作るんですか?

僕はそんなにかな、でも割とサボってる割に手は早いって言われる。大量に作るのは別の方に任せてやってるんだけど、一品物は僕がやるようにしています。

──作品の青や白は、何をイメージされているんですか?

具体的には、海の色ですね。海の色と、サンゴ礁の感じです。

器って何か一つ置くことで、空間が変わるでしょう。それやっぱ面白いよね、宇宙観っていうか。

──グスク(城)の石垣をイメージした作品もあるとか。

これは沖縄のグスク、お城です。石垣をイメージして作りました。こういう石積みがあるんですよ、今帰仁城なんかに。

──釉薬(ゆうやく)の話も伺えますか?

釉薬っていうのが、要するにガラスなんです。ガラスの粉をくっつけていくんです。 

例えば、この表面がブルーの器が釉薬を使ったものです。

これに鉄や銅を入れたりとか色々なものを入れて焼くと、1260度で溶けるんです。残波の瓶とか、現物のものを砕いて粉にしてやる方法もあります。いろんな調合の仕方があるんです。

これは白マット釉薬です。調合したものを素焼き状態のものに漬けるんです。そうすると、焼けたら色が変わった状態になります。

 ──他にも何か特徴的な作品はありますか。

これは厨子甕(ずしがめ)と言って、沖縄に伝わる蔵骨器です。沖縄には風葬の文化があり、遺骨を洗って納める容器として厨子甕(ずしがめ)が使われました。

そういう、あの世の世界に住む家みたいなものも作っています。

──どの作品にも山上さんの感性や世界観が強く反映されているなと。

僕はやっぱり自然が好きなのかな、自然から何かを学ぶっていうか。作ることも、見たことのないものを作りたいっていうのがあるんです。

──「分からないことを生きるのが表現」という山上さんご自身の言葉に通じるものを感じます。

自然の中に多分、見たことのない要素ってあると思うわけです。

ビッグバンっていうものを誰も見たことないじゃないですか。だけどそういうものを作りたいっていう、このイメージはできるよね。

それを映すっていうことなんです。それだけでは自然を表現したことにならないんです、写真と一緒だから。だからそこに分からない何かを見つけたいっていう探求ですよね。

そういうふうな次元に自分を持っていくんだけど、瞑想ではないんですよね、やっぱり物を作るからね。

陶器っていうのは、現物がそこに見えるっていうことは確かなんです。他の品物ってなかなか、そうはいかない。

思想がそういうものに変身していくのは、なんとなく形として面白いよね。